確か丹明文雄の著作に「人は誰でも一篇だけは傑作が書ける。それは自叙伝だ」という一節がありました。
今、末期高齢者の一人となって思いは自ら過ぎし年月へ向く。それらの日々は、平凡だが確かにかけがえのない自分だけの記憶として胸の奥に海綿状に浮遊している。それらを掘り起こして文字に定着させることは己の人生の総括になり、又多忙に紛れて老人の雑談に耳傾ける余裕のない子や孫達にも将来参考になるのでは? そんな思いで書き出した。自画自賛めいて”子供さえ読まぬ自分史書き始め”に堕さぬよう留意しながら。
書いてみて、殊に社会へ出て教師のはしくれとして、多くの生徒・同僚・先輩たちとの出逢いと別れの中で、自己嫌悪に陥るような至らぬことの多かりき半生を何とか務め果たせたのは、支えてくれた沢山の人々のお蔭と実感したことだった。あとがきの結びに、坂村 真民の「人生は深い縁の 不思議な出会いだ」が坐った。